孵化の時

 テニスの特典は数え方が独特で、ゼロを「ラブ」
(love)という。つづりは同じでも愛とは関
係がないようで、もとは「卵」に由来するらしい。
 フランス語の卵(ウフ)に定冠詞「ル」が付い
て「ルフ」になり、それが「ラブ」に変化したと
いう。なるほど、「0」は形が卵に似ている。
 全米、ウィンブルドンなど四大大会の男子シン
グルスで日本人選手が頂点に立った例は未だ
「0」、多くの人が長い歳月を温めてきた”夢の
卵”だろう。
 孵化の機運に列島が湧いている。全米オープン
で錦織圭選手(24)が4強入りした。日本男性
が四大大会のシングルスで準決勝に進むのは81
年ぶりで、そのことがすでに歴史的な快挙である。
 またとない好機が禅宗の言葉で<卒啄の機>
という。「卒」は卵の中でヒナが殻をつつく音、
「啄」は親鳥が外から卵をつつくことである。
 8月に足の指を手術したばかりの錦織圭選手
が、卵の中で、日本人の夢を孵化させるべく奮闘
している。微力ながら小欄も、言霊の嘴で殻を
つつくとする。きっと勝つ。

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