疏水の海岸の桜が満開のまま、しばらく静止を
保っていたが、ついに堪えきれず、散りに入った。
疏水の流れはその花びらが、まるで揺れ動く太古
の地表のように、大きな固まり、小さな固まり、
合体したり離れたりを繰り返し、下手に流れゆく。
じっと見ていると次第に川面の花びらで埋め尽
くされ、水の表を見ることも難しくなるほどだ。
昨年はこの桜の季節を過ぎてから引っ越した
ので、噂には聞いていたがこれほどのものだとは
思わなかった。花吹雪、という言葉は決して誇張
のものではない。
目を少し上方に転じても、これほど桜が多かっ
たのかと驚くほど、あでやかなぼんぼりを燈した
ような、微かに朱の入ったほの白いものが、転々
と山肌を覆う。
疏水の木の下は、オオイヌノフグリとキュウリ
グサの青、ホトケノザの薄紅、ペンペングサさえ
つつましく白い清楚な花を付け、土ももくもくと
やる気に満ちている。まさに時は春、万物がその
生を謳歌するにこれほどふさわしいしつらえが
あろうか。
桜
心

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